「ヘビメタさん」はおもしろい番組でした

本田美奈子が病気じゃなかったら絶対『ヘビメタさん』に出てたろうになあ」
「なんで?」
「なんでって……お前なあ、本田美奈子はなあ、ブライアン・メイゲイリー・ムーアから楽曲提供を受けてだなあ、おまけに彼らにギターまで弾かせてるわけだよ。な? 彼女ほどあの番組のゲストに相応しい人物がいるかってことだよ。なあ、お前なあ、わが町葛飾が生んだ歌姫をだなあ、あまりにも軽く見てねえか?」
「鈴木さあん」
「なんだよ」
「そんなこといったいどのくらいの人が知ってるとおもってるわけ?」
「少なくとも彼女の音楽キャリアを知る人間はみんな知ってるよ。知ってなきゃおかしい」
「そうじゃなくてさ、ね、もっと現実的にかんがえようよ。一般の人でね、100人中何人がそんなこと知ってるかって話よ。何人よ? 3人ぐらい? ね、何人?」
「マリリン」
「『ん』しかあってないよ」
「いいか、お前こそ現実的にかんがえろ。あの番組を見てるってこと自体、少なからずヘビメタやハードロックに関心があるってことだろうが。そういう人間なら知ってる割合は高いだろ? お前みたいに知らないやつがいても番組1本つくる価値は十分あんだよ。それで啓蒙すればいいじゃねえかよ。鮎貝に説明させてよ、熊田曜子に『幼稚園のときテレビ見ながら一緒に歌ってましたよぉ』とか言わせてよ、本人に『幼稚園だったんだ』ってちょっと残念そうに言ってもらってよ、そういうベタなオープニングからはじまって」
「鈴木さあん」
「なんだよ」
熊田曜子見たさに見はじめてハマった人が言っても全然説得力ないよ?」
「こまけえこと言ってんじゃねえよ図体はデカいくせによお」
「背が低いのに理想が高い人とあんまり変わんないとおもうけどね」
「うるせえなあったくよお。じゃあねえ、逆におききしますけれども、お前にとって理想的な『ヘビメタさん』ってどんなのよ? だれをゲストに呼べばおもしろいってよ?」
「そうねえ。うーんと……ロザンナ呼んで弾き語りさせてみるとか?」
「……おもしろいけれど聴いてて悲しくなるよ」
「さみしげな あめにぬれたきみの」
「歌うな!」
「アモーレー」
「アモーレミヨー ってうっせーよバカ!」
「そう?」
「大体な、ロザンナ呼んで、どうやってマーティと絡ませんだよ? ネタがねえだろうが。あ? 料理でも披露してもらおうってか? それこそお前がよく言うデブでも食ってろピザ、だよ」
「うんとね、イタリア料理ってそのくらいしかおもいつかないあんたがダメ」
「貧乏舌の能書きはどうでもいいからよ、ロザンナになにやらせんだよ?」
「どうしようかねえ……じゃあさ、ギター型のモップを買わせるってのはどう?」
「あのな、お前な、とりあえず同じチャンネルでテレビ見たまんま言ってるだろ?」
「そうよ」
「そうよじゃねえよバカ。ロザンナが通販番組に出てるからってなあ、そもそもそんなモップがねえだろうが。それとも新規につくるってか?」
「うん」
「だれが開発するんだよ?」
ドクター中松とか」
「コスト高えよ! つーかつくってくんねえよ!」
「鈴木さあん」
「なんだよ」
「あんたやっぱりバカでしょ。名前なんて使わせてもらえればいいの。弁理士の費用はこっちで負担しますからよろしくお願いします、ですむの」
「あっそ。じゃあつくれ。早くつくれ。そのモップぜひ欲しい。おれがそのモップ買い占めてやるわ」
「清掃会社でもつくんの?」
「んなわけねえだろ!」
「じゃあつくんない。つくったとしてもね、鈴木さんにはね、絶対売らない」
「へえ。ならつくったとして、どこのだれにどうやって売りつけるつもりよ?」
モト冬樹に買い占めてもらうからいいよ。ギター弾きながら掃除もできます、頭も磨けます、とか」
「お前な、ホントに通販番組ばっかり見てるだろ?」
「アニメとか特撮も見てるよ」
「知ってるよ!」

全米が泣いたいかレスラー」の河崎実監督の新作「ズラ刑事」の構想は、こうして生まれたのであった。

後半は全部嘘。