これで病院のはしごは終わりそうである。

7時ごろ起きる。まあまあ眠ったか。
もう起きるなり食事。
洗い物を片づけニュースなどを見るがどうもぼうっとしてしまう。きのう1日で、分割してではあるが相当睡眠をとっているはずなのに。「寝だめ」の時期だろうか。
こんな調子で午前中無駄にすごすぐらいなら、早めに病院へ行ってしまったほうが得策だいう結論にいたった。
コーヒーを飲み髭を剃りその他諸々身支度。9時40分ごろ家を出る。
途中郵便局に立ち寄り、ゆうべ封緘した得意先への書類を投函する。

10時前には病院に到着し受付をすませた。待合室は大層な混雑だった。
ある程度覚悟はしていたものの、おれの名前が呼ばれたのは12時をまわってからだった。やっぱり受付終了時刻ギリギリに行ったところでなんら変わりないわけだ。
診察室に入るなり、医師は「もうほとんどいいね」と言い放った。おれの顔を一瞥したうえでの診断だろうが、ずいぶんとあっさりしたものだ。荷物をおいて彼の前に座るが、きょうは百面相をさせられることもなかった。そのまま彼はいつものように続けた。
「じゃあね、プレドニン、これきょうも減らすから。うーんと、1日2錠……いや、1錠にしよう。朝に1錠だけ。ね。これっていきなりは切れない薬だから、朝1回1錠。これを2週間続けて、次で終わりにしよう。で、メチコバールだけど、これは……そうだなあ、1年ぐらいはのんでもらうことになるかな」
前回の診察時に「しばらく」とはきいたが、まさか1年とは。おれは吃驚しかかったが、即座に質問を返した。
アデホスも……ですよね?」
「そうそう、アデホスもね。2週間後にプレドニンとザンタック*1を切っちゃって、それから1年……えーと夏だっけ……」
彼はパソコンのモニタに映し出されたカルテを見ながらおれの受傷時期を確認しているようだったが、この2か月たらずのことも覚えていないのだろうか。そんなに長いあいだおれの治療を続けているとでもおもいこんでいるのだろうか。
「あ、12月か。じゃあ今年いっぱいってところかな。今年いっぱいメチコバールアデホスをのみ続けてもらって、それで限りなく100%に近いところまでもっていくようにしましょう。でも通院は4週間に1度でいいからね。なんなら薬だけ受けとるんでもいいし」
「そうしますと、脳挫傷の検診というのはその通院のときに指示を受けるって感じですか?」
珍しく口を挟むことができた。
「そうそう。それで様子を見て落ち着いているようだったら、2年に1回ぐらいの検診でも大丈夫だろうし。まだまだ脳みそ気にするような年齢じゃないですから。大変だろうけど月1回だし、頑張って」
彼は笑って言った。まあ厄介な爆弾を頭に抱えたまま今後生きていくことになってしまったというのは、おれのなかではもう仕方ないと受け容れたことだ。彼は慰めのつもりで言ったのだろうか。
彼はさらに続けた。
「耳のほうはどう?」
「聴力は問題ないみたいですし、左右のバランスとかも大丈夫なんですけどね。どうもまだなんか塞がった感じが残ってて、たまに鼻かむときとか『コポッ』ていいます」
「ああそう」
「むこうの先生が耳抜きはするなっておっしゃったんで守ってるんですけど、やったらすっきりするだろうなっておもってて」
苦笑しながらそう言うと、彼もなんとも表現しようのない笑みを浮かべながら言った。
「ダイビングとかできないじゃん」
「いや、そういう趣味ないんで」
「そう。まあとにかく月1回ね。頑張りましょう」
「わかりました。いろいろとお世話になりました」
おれはそう言って診察室を出た。
会計をすませ薬局で薬を受けとる。時計を見ると12時半すぎだった。このバカみたいな時間はなんなんだ。
耳鼻科のある△△病院の午後の診察まではまだまだ時間がある。実は午前中に2か所まわれたらそのあと行こうとおもっていたところがあり、家を出る前にその準備をしていたのだ。というわけでそこへ行って用を足した。
終えてマクドナルドで軽食。ハンバーガー2つと爽健美茶。栄養偏ってるねえ。服薬して△△病院へ。

△△病院の午後の診察はすでにはじまっていた。受付をすませ待合室へ。
やがておれの名前が呼ばれ、聴力検査を受けることに。きょうは鼓膜の検査はなく、聴力検査もステレオヘッドフォンを1つ使っただけの気導検査のみで骨伝導スピーカは用いなかった。
相変わらず眠くて反応速度が遅くなってしまったような気がした。待合室に入って腰を下ろした途端に眠くなるのはどうしたものなのだろうか。
「どうも眠くってボタンを押しそびれちゃいました」
と、またまた検査技師に言い訳がましく告げると、彼女は笑っていた。
「結果は大丈夫ですよ。……ちょっと高い音は聴きにくいですか?」
「ああ、前回も左右ともに高音域が落ちてておかしかったんですよ。やっぱ眠気とか関係あるんですかねえ」
「それはないとおもいますよ。じゃ、結果プリントしますんで外でお待ちください」
すぐに彼女が検査結果の記録用紙を挟んだファイルをもってきておれに手渡した。そしておれはまた耳鼻科に戻り、受付にファイルを渡した。
やがて診察。入室してナースや医師に挨拶をし、診察台に座る。
検査結果は問題なしとのこと。記録用紙を見ると、たしかに左だけ8,000ヘルツ付近が下がっていた。医師の説明によるとこの程度は許容範囲らしい。
顔面神経麻痺についての診察を受けた。いつもどおり百面相をすると「ああ、もう完璧ですね」と医師は言った。よかった。あっちではそうは言わないからねえ。さらにあっちでの投薬状況を確認されたので報告する。医師はとくになにも言わなかった。
「自分でなにか不都合あります?」ときかれたので
「顔のほうはもう全然問題ないんですけど、やっぱり耳のコポコポする感じがどうしても気になって。外に出たりすると、気圧の変化とかで『コポッ』とかしちゃうんですよ」
「うーん、まあ『コポッ』ぐらいなら大丈夫でしょうけどね」
「そうですか。ほら、先生耳抜きはするなっておっしゃってたんで、とにかくやらないようにしてて、あと鼻をかむときも極力優しくしてたんですけど、どうもたまに『コポッ』ってなっちゃうんですよ」
「うん。やっぱり強くしちゃうと、鼓膜にはね、くっついたとはいえすじが入ってますからね。そこから亀裂が入っちゃうこともないとは言えないんで。まあ普通に生活する分には大丈夫ですよ。そういえばダイビングとかやったりします? それこそ気圧の変化が加わるようなこと」
「ああ、それさっきあっちでも言われたんですよ。ダイビングやれないじゃんって。やりませんけど」
「いや、まったくできないってこともないんですよ。もしもやるようなことがあったら言ってください」
「あ、そうなんですか。わかりました」
「ではこれで『完治』ってことで。よかったですよ。ライブでも演るときがあったらまあチラシでも送ってください」
「はい。どうもありがとうございました。お世話になりました」
社交辞令に答えつつ誠心誠意謝辞を述べて診察室をあとにした。

  • そして家に

会計をすませ、家に戻ったのは15時50分ごろ。手洗いとうがいをクソ丁寧に。そして薬の整理をする。
耳完治の報告メールを各方面へ送りまくった。ほとんどコピペをいじったようなものになってしまったが。
酔っ払いの友だちからは早くレスがきたのでまたレス。
食事をすませ洗い物を片づけ、午前中に書類を送付した得意先へメール。
あれこれと慌ただしくことをすませ、ようやくひと息ついたところで眠くなってきた。19時半ごろ寝る。


2時ごろ起きる。
あちこちから耳完治について心温まるメールが届いていた。みなさんありがとう。それぞれにレス。
その後少々野暮用を片づけ、仕事の手直しをし、5時ごろにまた寝た。

*1:胃薬である。プレドニンが強い薬であるうえに総じて投薬量が多いため、胃への負担を考慮して処方されている。