6月の雨ふり坊主

http://www.aozora.gr.jp/cards/000096/files/914_13520.html
先週14日日曜の昼下がり、このブログのアンテナにリンクも貼ってあるe-booから電話がきた。今夜花園神社で唐十郎の舞台があると言う。楽日だとか。チケットが余っているというので行くことにした。
唐さんの舞台なんてどのくらい見ていないだろうと振り返った。おもい出せない。20代の後半につきあっていた女性が唐さんのファンであった。唐さんの舞台は水をいっぱい使うんだよと、自分の経験談を交えながら教えてくれたのは彼女だった。彼女と美輪明宏の「黒蜥蜴」を見に行った記憶はあるが、唐さんの舞台を見に行った記憶が出てこない。どうせ見ていないのだろう。
どんな舞台かとネットで調べてみる。「唐組・第43回公演 黒手帳に頬紅を」の情報にたどり着いた。どうやら作中に夢野久作の「斜坑」が使われているらしいことがわかる。彼女は夢野久作のファンでもあった。おれはといえば、中学生のときに「ドグラ・マグラ」や「少女地獄」を、米倉斉加年のカバーによる角川文庫版で仕入れて読了して、社会人になってからは三一書房の「夢野久作全集」を、薄給から小遣いを捻出して手に入れていた。その全集の編集を手がけた方のご息女と後年恋仲になるなどとはまったく予想していなかった。彼女は「死後の恋」と「氷の涯」がお気に入りで、あるとき、両方が収められたちくま文庫版の全集の第6巻をおれに差し出して読むように勧めた。多分おれは彼女に三一書房版の全集をもっているとは話していなかったのだろう。おれはそれを受けとり、あらためて読み直し、そのあと彼女に返した。すると彼女に「そういうことはするもんじゃない」と叱られてしまった。あげたんだから、というのが彼女の言い分である。なるほど、とおれは非礼を詫びた。彼女はおれより7歳年上であったから、多くの局面においていろいろなことを教わった。しかし強い怒りの感情をぶつけられたのは、おそらくこのとき以外には数えるほどしかない。
そんなことをつらつらとおもい起こしていたら、雨が降ってきた。梅雨入りしたとはいえ、いつもながらおれの雨男ぶりもすさまじいものである。かねてあちこちで放言しているが、旱魃で苦しむ地域へおれが行ったらきっと喜ばれるとおもう。
花園神社境内でe-booと落ち合う。少し痩せたような気がするが、相変わらず巨漢だ。身長は185センチぐらいだろうか。その後体重をきいたら114キロと答えたので「ああ、ちょうどおれの倍だね」と返したのだが、間違いなくもっとある。
やつの友だち、というかやつの奥さんのお店のお客さんのジュンコさんという人を紹介された。坊主頭で年齢不詳の人物である。名前から察するに、きっと女性なのだろう。
唐組・第43回公演「黒手帳に頬紅を」を見る。
実によかった。唐さんというのは江戸っ子なんだな。それがあらためてよくわかる舞台だった。
途中あまりの大雨のために舞台が中断した。といってもアクシデンタルな中断ではなく、一幕やり切って休憩を挟んだ格好だ。テントに打ちつける雨音で台詞はきこえにくくなっていたし、上に溜まった雨水の重みで舞台の天板が一枚ずれてしまっていた。そのままでの舞台続行には、さすがにおれも少々身の危険を感じた。
見終わってから北千住へ。e-booの奥さんがやっている、アジアン雑貨のお店兼ベトナム料理と自家焙煎コーヒーのお店へ行った。
http://sqnw.shop-pro.jp/
おれは5年ほど前にこいつが結婚するとき、新居への引っ越しを手伝ったのだが、奥さんにはこの度はじめてお目にかかる運びとなった。姫路出身というのは知っていたが、あまり関西の人間らしさを感じさせない、穏やかな優しい美人だった。
とにかく空腹で仕方なかった。カボチャとサツマイモのサラダ、スープをとったあとの鶏肉とトマトとレタスのサラダ、レモングラスコリアンダーのきいたチャーハン牛焼肉乗せ、豚の角煮丼、フォーをいただく。いずれもとてもおいしかった。実は過日大阪へ行った際に、連れがベトナム料理の店に行きたいと言うので同行したのだ。シーフードが具のライスヌードルと豚の角煮を乗せたご飯のセットをいただいたが、どうにもまずくてまともに食べられなかったのである。スープのベースとなっている化学調味料の味と香りがどうにも耐え難い。コリアンダーの香りもなんだかつらい。まるでパクチーが苦手な人になったみたいだ。豚の角煮は脂っこいうえにしょっぱい。つまりすべて刺激が強いのである。最近のおれが更年期障害風のものに悩まされていて、いささか刺激の強いものを求めるようになったとはいえども、これは度を超えていた。ヌードルは完食したが、角煮ご飯は一口食べた後は口に運ぶ気がしなかった。食べものを残すのはきわめて異例のことであり久しぶりである。おれはもうアジアンエスニックを受けつけられない体になったのかなあと少し嘆いたものだ。それが今回はちゃんと食べられたどころか人の分までいただく始末だったので、行儀はさておきよかったとおもう。
なんと読むのかわからないが黒ビールをいただく。アルコール度数5.9%と高めだった。氷を入れて飲むのでちょうどいいのかもしれない。そのあと、もち米でつくったウォッカをいただいた。紹興酒のような色と香りで、味も紹興酒に似ているが、やや甘めで杏のような風味がある。29.5度という度数がまたロックで飲むのにぴったりという感じだった。
奥さんも交えて舞台の話などをする。出演者のなかに、大鶴美仁音という若い女優がいた。名前から唐さんの身内なのだろうとは容易に想像できたが、いったいどういう続柄なのかとあれこれ言いあっていた。調べてみるとなんと唐さんの実の娘であるようだ。大鶴義丹のブログに登場している。
http://ameblo.jp/gitan1968/day-20090104.html
彼とは異母妹ということになるようだ。今年の正月のエントリーであるが、その当時で彼女は高校2年生とのこと。となると現在高校3年生で、まだ17〜8歳ということになる。唐さんが50歳をすぎてからのお子さんとは恐れ入谷の下谷万年町物語である。
結構遅くまでお邪魔し、すでに終電などないのでタクシーで帰った。また近々伺いたいものだ。
雨はとっくに上がっていた。